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※「百鬼夜行拾遣」より
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日本の妖怪 
人面樹
 今回は「人面樹」という妖怪を取り上げてみたい! 

 何年か前、「人面何とか」という類が日本中で流行ったが、どうやらそのルーツは「人面樹」にあるらしい。正確には「ジンメンジュ」ではなく「ニンメンジュ」と読むが、元々は中国の妖怪らしい。
 
 『今昔画図続百』によると、鬼山奥の谷間にはえる木で、花は人も顔のようで、口も聞かずに笑うだけとある。しかし、度が過ぎて笑いすぎると、その花は落ちてしまうらしい。
 
 人面樹は大食国の山谷にあり、その花は人の首のごとしとある。日本では石燕が、『和漢三才図会』巻十四に記しているが、『老媼茶話(ロウオウサワ)』巻一には、大食国は西南海上千里の彼方にあるとしている。元々人面樹の話は、会津地方を中心とした奇談集『老媼茶話』に収録されたものらしいが、写本で伝わって読まれたとされる。

 どうもその元の元は、中国の四大小説である『西遊記』『水滸伝』『紅楼夢』『三国志演義』の中の『西遊記』[呉承恩(1500?1581)]に遡れるという説があるようだ。

 御存知、孫悟空ら三人の弟子を連れた三蔵法師が、天竺まで、仏のありがたいお経を授かりに赴く大活劇小説だが、その原型は実在する僧玄奨三蔵が、大乗仏教を求めて中国・唐からインドへ十七年の年月をかけて旅をし、多数の教典を持ち帰ったことに由来する。
 五荘観という道教の寺で、立ち寄った三蔵をもてなすため、童子たちが庭に生える不老長寿の実である人参果を刈り取って運ぶと、その姿が赤ん坊の形をしているので心優しい三蔵は食べることを拒否する。

 この人参果は「不老長寿、神仙の府」と書かれている。これを食すには金撃子(キンゲキシ)で切り、丹盤で受けねばならないとある。人参果は生まれたての赤ちゃんのようで、手足五官もあり、香りを嗅ぐだけで三六〇歳まで、1つ食べれば四万七千年も長生きできるとされる。
 
 ところで中国へ赴いた方なら御存知かもしれないが、西寧や蘭州などの土産屋で乾燥させた箱入りの人参果が売られている。長さは12センチほどの細長い根菜のようで、これを水で戻してから調理する。味は僅かに甘く、少し痩せたサツマイモのような感じである。乾燥させる前は茶色の野菜で、「yan{4}sam{1}gwo'」と発音する。青藏高原特産の野菜でチベット人には非常に贅沢な料理となる。

 更に、我々日本人にも馴染み深い「高麗人参(朝鮮人参)」も、人の股のように両足が生えているほど効果が大きく値段も高いようだ。そのことから元々人参は人の足に似るものなのかもしれない。日本でも人参大根というように、大根も大根足にしてしまう。そして『今昔物語集』の説話原典となったのが、『大唐西域記』巻十一の説話だった・・・と、これで人面樹のルーツも分かり、大団円と思われては困る。
 そこでもう一度人面樹に話を戻すと、興味深いところが見えてくる。

 『続日本紀』の中に「大食国」の文字が見えるのだ。「大食」とは「大石」「大氏」などの文字とともに、当時の中国で「タージ(TAZI)」ないし「タヂーク(TAZIK)」を広く呼称したときの音訳を適当な漢字にあてはめたのが、大食の起源とされている。実際、ソ連邦治下時代の中央アジアにタジック共和国と称するイラン系民族で構成されているイスラーム国家が存在した。
 つまり大食国とは、当時の中東(アラビア)地帯のことを言っているのだ。特にイラン付近を指している。
 この頃のイランの状態は、新興勢力アラブ・サラセン軍の遠征軍に圧倒され、ササーン王朝最後の皇帝ヤズダギルド三世が、ニハーワンドの一戦で完敗しササーン王朝は滅亡している。イスラーム・サラセン軍の西方からの侵略でトカレスタン地方を含むイランの人たちが東へ移動し、唐の部長安まで亡命して来た後、その中の一部が来日したのだろう。

 一部の研究者の間では、『続日本紀』『日本書紀』の時代の前後に建立された大和の飛鳥寺やその当時に掘られた大和の池の形が、円形でなく方形式が多いことから、イラン人の造形技術の影響によるものと論考されている。こうしたことから日本の造形文化になにがしかの寄与をしたのではないかと推断されている。

 勘違いする人が多いが、イスラームは『旧約聖書』を信じている。つまり、その中には「生命の樹」の物語が創世記の中に存在する。そして生命の樹は“永遠の命(不老不死)を授かる木”なのである。
 そしてカッバーラではその姿は人形(ヒトガタ)をしている。それをアダムカドモンといい、生まれたて(原始状態)の人のことである。つまりは赤子と同じ姿なのだ。もはや御分かりだろう。怪異な妖怪とされる人面樹とは生命の樹のことなのである!

1:ろくろ首 2:提灯小僧 3:天狗 4:鬼 5:一つ目小僧
6:河童 7:九尾の狐 8:鵺(ヌエ) 9:猫又 10:龍
11:のっぺら坊 12:人面樹 13:足洗い屋敷 14:狸 15:送り拍子木
16:灯りなし蕎麦 17:片葉の葦 18:おいてけ堀 19:落ち葉なしの椎

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1:ろくろ首
2:提灯小僧
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6:河童
7:九尾の狐
8:鵺(ヌエ)
9:猫又
10:龍
11:のっぺら坊
12:人面樹
13:足洗い屋敷
14:狸
15:送り拍子木
16:灯りなし蕎麦
17:片葉の葦
18:おいてけ堀
19:落ち葉なしの椎
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