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第130回
 「TVはネットに吸収される」は、平成の怪物ホリエモンの大胆予測だった。
 その予測はマスコミ界で様々な論議を呼び、「昔、TVが登場しても映画は駆逐されなかったではないか」と、専門家から嘲笑を浴びることになる。
 それが、良くも悪しくもライブドアのニッポン放送を介するフジテレビへのM&A攻勢で最高潮に達し、検察が公権力で踏み込んだ直後、今度は一斉にマスメディアがホリエモン潰しに躍起になってくる。
 今回、着目したいのはそのことではなく、TVの限界を断言したホリエモン予測のことである。
 今年、そのホリエモン予測を地で行くように、USENが「ギャオ/GYAO」を設立し、TV局顔負けのネット配信が開始される。今はまだソースが少ないが、パソコンの普及と光ケーブルの増設で、近い将来、TVと並ぶことは容易に予測できる。
 NHKが法的強制力で放送料金を回収しようと企てる動きの中、ネット放送は料金を払わずに済む。このことはネットに大きく味方すると思われる。

 今年の夏、とうとうホリエモンの予測を実証するような出来事が起きた。それはTVの未来を予測するにはあまりに象徴的な出来事だった。『ゲド戦記』騒動である!!
 ところが、敢えて騒動という言葉を使ったものの、TVでは全く騒がれていないのだ。ニュースどころかワイドショーにもなっていない。少しも騒動になっていないのだ。大騒ぎになっているのは「ネット」なのだ。アニメブランドの最高峰であるジブリ作品が、ネットの中で非難轟々の大嵐に晒されているのである。
 この落差はいったい何を物語っているのだろうか?
 この事件が「TVが嘘をつく!!」ことを、日本中に知らせる最初の事件ではないかと筆者は考えている。TVの限界を露呈させた「分岐点」になるということだ。
 『ゲド戦記』は、鳴り物入りで2006年の夏休みに全国上映され、今も100億円の興行成績目掛けて順調に突き進んでいる。夏休みの観客動員数がトップなのに、どこが問題なのだろうか?

 筆者(飛鳥昭雄)は、数年、アニメ業界で飯を食ったので、日本のアニメ製作の現場をある程度知っている。その筆者がまず絶句したのは、宮崎駿氏の息子というだけで、鈴木プロデューサー(現・ジブリ社長)が、ずぶの素人を監督に据えたということだった。
 アニメに限らず、エンターテイメントの世界では「世襲制」は愚行である。歌舞伎や匠の世界なら、伝統を継承するための修行も成り立つが、創造するエンターテイメントの分野では“特殊才能”が必要なのだ。これは基本的に遺伝しない。
 そんなド素人が作る大作アニメなど、高い金を出して観に行く代物でない。そのことは業界の人間なら初めから分かっていることだ。エンターテイメントはそんな甘い世界ではない。そんな常識の常識を、鈴木Pは一蹴してしまったのである。

 素人監督についていくようなら、そんなアニメーターはろくな奴ではない。実力のあるアニメーターや作家なら、世襲を平気でやる制作会社など、見切りをつけて飛び出すからである。後に残るのは、飼い猫のように飼いならされた毒にも薬にもならない連中だけだ。
 案の定、それまでジブリを支えてきた有能な作家や、古株のアニメーターなどは、殆どジブリを辞めてしまった。鈴木Pの社長室には「逆らうものは去れ!」というニュアンスの社内訓が掲げられているというが、傲慢もここまできたかという感がある。
 調子に乗っているのだろう。宮崎駿という虎の威を借る狐とだけ言わせていただこうか。
 素人監督と無能アニメーターが、見事に夏休みに間に合わせて作ったアニメ、それが『ゲド戦記』である。
 なぜ夏休み公開に間に合ったのか・・・・・その理由は一つしかない。手抜き作品ということだ。宮崎駿監督や高畑勲監督でさえ、上映ギリギリまで必死に苦労しても、間に合わないというのがふつうの世界だ。それがすんなり間に合った。如何に駄作かは、この段階で読み取らねばならない。

 それに対する鈴木Pの策を見てみよう。
 まず、TVによる大宣伝作戦である。
 他にも、ネットで「息子の作品を宮崎駿監督が認めた!」という嘘の情報を流すことだ。(駿監督が後に認めた情報を否定している/これは詐欺である)
 次に、親子でも安心して観れる作品と思わせるため、子供に最も人気がある『となりのトトロ』を夏休みにTVで流す。これで、『ゲド戦記』がトトロと同質のアニメと欺ける。
 実際、上映館で御覧になった方は分かるだろうが、あの作品は分けの分からない独りよがりな内容で、演出もデタラメなら脚本も中学生レベル。残虐シーンを多分に含む「R指定作品」にも関わらず、膨大な数の親子が勘違いして上映館に殺到した。
 親殺しや残虐シーンが、子供に悪影響を残すのは歴然だが、それでも大勢の親子は、鈴木Pが狙う100億円の興行成績に貢献するためゾクゾクと上映館に押しかけていった。

 問題は、『ゲド戦記』の原作者が、怒りを込めてジブリの誠意の無さを訴えたことにある。(アメリカで公開した段階で、ジブリが訴訟される可能性がある)
 一方、ネットでは、YAHOO掲示板を筆頭に、『ゲド戦記』に対する最悪の評価が飛び交っていた。
 その多くは、「宣伝に騙されて観にいかない方がいい!」や「子供に見せられる内容ではない!」という書き込みである。当然、ジブリのHPはそんな書き込みなど一切載っていない。それが鈴木Pの指示であることは間違いないだろう。
 鈴木Pに同調するように、TVでも一切そんなニュースを流さない。流さないのは当然で、テレビ朝日、日本テレビ、TBSなどはジブリと関係が深く、他の局もジブリの反発を恐れてか騒動の報道はしない。特にアサヒ系列は「ゲド戦記を応援しています」と協賛までしているため、まずオミットされてしまう。

 つまりTVは、金儲けが絡めば子供に悪影響のある作品でも、止め処なく宣伝を流し続ける体質をもつということだ。それを今回いみじくも全国に露呈してしまったといえる。
 一方、ネットはそんな縛りは一切無い。その分、比較的正しい情報が流れていく。(勿論、信用できる管理サイトしか当てにならないが)
 興味深いのは、『ゲド戦記』の問題を取り扱った雑誌が、男性誌の「週刊文春」など数誌で、ブランド志向が強い主婦層が買う女性週刊誌には、主婦の反発を恐れてか、今回の騒動の報道をしない。
 そんな中、パソコン音痴の主婦層が、TV宣伝だけを真に受け、夏休みに子供や孫を大勢引き連れて映画館に殺到した。今回のことで、どんな駄作でも莫大なTV宣伝さえ打てば、ジブリブランドべったりの主婦層を簡単に欺けることが証明できたわけだ。
 言い換えれば、この国は、たとえ素人作品でも、マスコミが総力を挙げて束になれば、簡単に100億円の興行成績を稼げられる国ということになる。
 YAHOOに示された「金を払って観にいく作品ではない」という膨大な書き込みを見ても、やっぱり足を運びますという者が多かったことでも、日本人の性癖(情報があっても分析能力が無い)が露呈したといえる。
(06/09/08)
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