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飛鳥昭雄の漫画家人生
第4回 チップピーター
 第一回講談社新人漫画応募作品の「チップピーター」は、「鉄腕アトム」の設定をそのまま使った作品だった。
 
 主人公の顔はまるでアトムだが、アトムの特徴の両側の角を無くし、その代わりに耳の裏を尖った三角形で飾り、額から稲妻型のアンテナを出させた。そして、アトムの黒い海パンの代わりに、当時流行っていたタイツを履かせてスマートにした。
 そして、ピーターには孫悟空のニョイ棒のような細長いロケット棒を持たせ、それで敵ロボットと戦い空も飛ぶようにした。更に両腕に小型ミサイルを装填させ、悪いロボットを破壊するのだ。
 
 ところが、「鉄腕アトム」同様、科学省のお茶の水博士もどきがいて、警察にもタワシ警部もどきがいた。その設定はどう見ても鉄腕アトムである。だから手塚氏がこの応募作品を何処かで聞いたか、実際に見て激怒したという理由も分からないではない。いや、ハッキリと分かる。
 
 ところで、手塚氏の「鉄腕アトム」に〔史上最大のロボットの巻〕というのがあるが、その中でプルートウを倒したボラーのデザインは、ピーターの宿敵ロボットのデザインそのままだった。
 更にピーターが倒したアセチレンランプもどきのポカネ親分の顔は、そのまま「新撰組」(少年ブック/集英社)に登場し、とどめはピーターの耳飾りをそのまま黒色に変えて「ジェッター・マルス」に使われる羽目になった。
 
 ボラーの時は偶然かもしれないと思ったが、「新撰組」ではほぼ間違いないと思い、「ジェッターマルス」で確信に変わった。今も100パーセントとは思っていないが、以前、手塚氏の元でアシスタントをしていた知人に聞くと、「手塚先生ならやりかねない・・・」と言っていた。
 
 これは今で言うパクリという十把一絡げの軽薄な意味ではない。手塚治虫という天才の二面性を言っていたのだ。つまり、手塚氏には「新人に非常に親切である顔」と、「蹴落としてでも新人を叩く顔」があったということなのである。天才の手塚治虫を語るにはその両面を見なければ決して実像が見えてこない。
 
 その意味では、天下の手塚治虫氏が、中学一年生に過ぎなかった私を潰そうとしていたことになる。だが、それに負けるようなら所詮は漫画家になれないのである。
 
 手塚氏の名誉の為にも申し上げておくが、東宝が募集したゴジラ応募作品の中で、私の脚本を強く押してくれたのも手塚治虫だった。それを機会に、私は手塚氏との奇妙な因縁を払拭できたと思っている。
 
 手塚治虫という不世出の大天才は自然と同じなのだ。自然は人間に災いも与えるが恵みも与えてくれるのである。

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