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飛鳥昭雄の漫画家人生
第55回 幻の受賞作「青山トマト君」
 昔、光文社が出していた青年漫画雑誌『ジャストコミック』に、あすかあきおが佳作入選していた。

 作品は「青山トマト君」賞金は10万円である。

 一緒に入賞していたのは、今や「フラグメンツ」「君といつまでも」「安住の地」で知られる山本直樹氏である。

 今や彼は青年漫画で『ビッグコミック』(小学館)等々で一流漫画家として頑張っているが、1984年はまだ新人だった。

 筆者の応募した「青山トマト君」の寸評は以下の様に記されている。

 「奇をてらうことなく、どこにでもある平凡な素材(これが最も料理するのが難しい)をとりあげ、そのテーマとガップリ四つに組んでいる創作姿勢が涼感を与えた」

 ううううむ・・・・奇を最もてらい、平凡な日常漫画を不得意とするあすかあきおが、そういう作品を描くとは・・・・・それも佳作入選している。

 どこか変ではないだろうか?

 それもそのはず、筆者は「青山トマト君」などという漫画は一切描いていない。いや、『ジャストコミック』に応募さえしていないのだ。

 では、ここにある“あすかあきお”とは何者なのか?偽者なのだろうか?

 いや、本物のあすかあきおである。

 これは一体どういうことなのか?

 じつは、この佳作入選は、筆者を青年漫画誌でデビューさせる為の仕掛けだったのだ。

 筆者は応募作品を描かない。が、佳作入賞している。だから青年漫画誌で活躍できる土台が出来たことになる。そういう為の受賞工作だったのだ。

 応募総数74点とある以上、そんなことで落選した人はさぞや腹が立つだろう。不正と叫びたいだろう。

 しかし、これも出版界の一部で行われている常識なのだ。

 言いかえれば、落選した者にもし実力があれば、最低でも選外佳作ぐらいには入っているだろう。

 だから落選者に不正と叫ぶ資格はない。自分に実力が無かったからだ。

 山本氏はこういうケースに関係無く、作品で入賞した漫画家である。だから絵がちゃんと掲載されている。

 では筆者はなぜこういうケースになったかというと、たまたま、ある人を通して紹介された編集者が『ジャストコミック』の記者で、筆者の話が面白いので、将来、自分の所で連載させたいと考えていたのである。

 当時、「つくば博」で筑波が世間的に盛り上がっていた時期でもあり、筑波を舞台とする学生漫画を描かせたい趣向だったのである。

 筆者は筑波近郊に住んでいたので、先方にとっても都合が良かったのだ。

 かくして青田刈りならぬ手付という現象が起こったのである。それがこの奇妙な受賞者発表だ。

 要は筆者の未来を受賞という形で編集部が考えてくれたということである。詭弁であれ、これも出版界でいう実力の一つなのだ。

 残念ながら筆者が『ジャストコミック』で作品を描く事は無く、山本氏も余所で一から始めねばならなくなる。

 この数カ月後、『ジャストコミック』は廃刊してしまったからだ。

 正に幻の受賞となったわけだ。これだから世の中は面白い。

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